古瀨 雅義(著)
A5判 496頁 上製
定価 11,000円+税
ISBN 978-4-305-70817-5 C0095
在庫あり
奥付の初版発行年月 2016年10月 書店発売日 2016年10月27日 登録日 2016年10月05日
2017-06-10 日本文学 東望歩
清少納言は、『枕草子』の本文をただ筆に任せて記したのではない。あらかじめ綿密に考案した「設計図」をもとに推敲しながら各章段を書き、それが好評を博していたのである――。
本書は『枕草子』を「章段構成」の視点から考察する。書き手が、設定した各章段のテーマにどのような素材と表現を選択しているのか、それらをどのように組み立てて話の筋を展開しているのかという視点で、各章段の構成の有り様を探る。『枕草子』が現代文学として成立した平安時代当時、書き手と読み手が共有していた知識と解釈について詳細に検証して、章段の中で素材と表現が対応しながら絡み合い、有機的に関連しつつ展開していく構成の「仕組み」を明らかにする。各章段における素材や表現の展開と構成に注目することで、『枕草子』の文学史的な到達点と位置付けをとらえ直していく。
【書き手の清少納言は、章段の前半に「仕掛け」となる素材と表現をさりげなく記しておき、話の展開とともにそれらをある特定の意味へと「変容」させながら後半に深く関わらせ、基本軸となる解釈の「指標」を示して、章段末尾に至って首尾良く収束させている。この事象が随所に確認できることから、書き手は読み手を意識して書き進め、一章段が緊密な構成を持つ様に設計し、話の展開を計算して書いていることが明らかになった。】「はじめに」より。
はじめに
凡 例
序 研究史の概観と問題の所在
一「章段構成」の定義/二 記録と表現の研究史/三 本書における問題意識と視点
第Ⅰ部 章段構成を支える漢詩文・和歌の表現と論理
第一章 漢詩文の表現を活かす章段構成
第一節 「憚りなし」が指示する『論語』古注と基本軸
はじめに/一 『論語』古注における「過則勿憚改」の解釈/二 清少納言の「憚りなし」とその意味/三 第四七段第一部と「主忠信、無友不如己者」/四 第二部における『論語』基本軸/五 第三部における『論語』基本軸/まとめ
第二節 「この君にこそ」という発言と「空宅」の取りなし
はじめに/一 「おい。この君にこそ」の当初の意図と反響/二 「おい。この君にこそ」は名答か/三 「知らぬものを」ととぼけた理由/四 行成の「取りなし」の解釈/五 当該章段の話の展開と構成/まとめ
第三節 返りごととしての「草の庵を誰かたづねむ」
はじめに/一 斉信の問がふまえているもの/二 『白氏文集』の第五句をめぐる斉信の配慮/三 清少納言の返りごと/四 清少納言の返りごとをめぐる斉信たちの反応/五 斉信たちが上句を付けられなかった理由/まとめ
第四節 「香爐峯の雪いかならむ」への対応と展開
はじめに/一 『枕草子』第二八〇段の本文/二 典拠となった『白氏文集』/三 定子の問と清少納言の答/四 人々の発言/まとめ
第五節 「少し春ある心地こそすれ」の解釈と対応
はじめに/一 「少し春ある心地こそすれ」の振幅/二 「空寒み花にまがへて散る雪に」の解釈/三 『公任集』所収の贈答の解釈/四 典拠の『白氏文集』「南秦雪」の解釈/五 清少納言の躊躇と機転/まとめ
第二章 和歌の表現を活かす章段構成
第一節 「扇」から「くらげ」への展開と構成
はじめに/一 「くらげの骨」という表現/二 和歌における表現としての「くらげの骨」/三 特異な語を活かす章段の構成/四 「秀句」を支えるもの/五 当該章段の展開と構成/まとめ
第二節 「ほととぎす」の歌ことば世界と創造への志向
はじめに/一 注目されていた清少納言の詠歌/二 清少納言と郭公/三 三代集の郭公詠/四 郭公詠の趣向と清少納言の状況/五 清少納言の狙った郭公詠/六 詠めずじまいの理由/まとめ
第三節 「ほととぎす」から「下蕨」への展開とねらい
はじめに/一 「下蕨」が語られる状況/二 素材としての「下蕨」/三 「下蕨」の話題を書き記すことの意味/まとめ
第四節 「円融院の御果ての年」章段における歌ことば「椎柴」の応用と展開
はじめに/一 『枕草子』の一条天皇御製歌/二 贈答歌にみる「椎柴」と「葉がへ」/三 円融院の諒闇と「椎柴の袖」/まとめ
第Ⅱ部 章段構成の方法と論理
第一章 主題を活かす章段構成の方法
第一節 積善寺供養章段の時間軸とモザイク的様相
はじめに/一 史実としての積善寺供養/二 当該章段の場面展開/三 「出でさせ給ひし夜」はいつの事か/四 場面⑤の本文分析/五 章段内構成の視点から/六 主題の位相と各場面の相関/まとめ
第二節 雪山章段における表現の対比と効果
はじめに/一 史実としての雪山章段/二 当該章段の場面展開/三 話題作りとして展開する雪山/ 四 歌枕としての「白山」/五 和歌の構成と話題の焦点化/六 話題作りの発案と展開/まとめ
第三節 「いはで思ふ」歌からみた『古今和歌六帖』享受の様相
はじめに/一 『古今和歌六帖』における「いはで思ふ」と「下行く水」/二 『枕草子』における「下行く水」①―第七一段「懸想人にて来たるは」―/三 『枕草子』における「下行く水」②―第一三七段「殿などのおはしまさで後」―/四 歌語としての「言はで思ふ」/まとめ
第四節 「寝起きの顔」章段における一手法としての再構成
はじめに/一 第一部の行成像/二 対比して描出される行成像―第二部前半―/三 『論語』引用の効用と構成―第二部後半―/四 第三部への展開と構成/まとめ
第五節 「芹摘みし」歌の異化作用と「めでたし」評
はじめに/一 「一条の院をば」章段に描かれた世界/二 当該章段の史実年時/三 「めでたし」とみる姿勢/四 「芹摘みし」をめぐる古注の解釈/五 中関白家の政治的状況と定子の動向/まとめ
第二章 表現の展開を活かす章段構成の論理
第一節 「鳥のそら音」章段における表現の重層性と論理
はじめに/一 手紙の対比と論理/二 手紙の行方/三 行成との会話と展開/四 「いとわろし」の対象/五 後日談としての源経房の発言/まとめ
第二節 「なかなるをとめ」の表現意図と「ずれ」の様相
はじめに/一 『宇津保物語』における当該歌/二 「なかなるをとめ」をめぐる解釈/三 清少納言の意図/四 定子の解釈/まとめ
第三節 「六位の笏」と「辰巳」の隠し題とその論理
はじめに/一 言葉遊びの構造/二 「辰巳」と「立身」/三 「辰巳」から「西、東」への論理/四 「西、東」である理由/五 笑いの対象としての「六位」/まとめ
第四節 積善寺供養章段における「申しなほす」の効果
はじめに/一 乗車争いとその顚末/二 「申しなほす」の解釈/三 「申しなほす」の論理/まとめ
第五節 「春は曙」章段における対比構成の変容
はじめに/一 「春」について/二 「夏」について/三 「秋」について/四 「冬」について/まとめ
第三章 〈場〉を活かす章段構成の論理
第一節 「宜陽殿の一の棚に」と発言した「頭中将」は源経房か
はじめに/一 藤原斉信の呼称/二 藤原斉信と管絃/三 管絃者ではない斉信/四 一条朝における管絃の担い手たち/五 「頭中将」とあることの疑問/六 「右中将」源経房か/まとめ
第二節 場面を展開する右近内侍の役割
はじめに/一 右近内侍について―同時代の記録類から―/二 『枕草子』長編章段の右近内侍①―翁丸章段―/三 『枕草子』長編章段の右近内侍②―雪山章段―/四 『枕草子』短編章段の右近内侍①―第九六段―/五 『枕草子』短編章段の右近内侍②―第二二二段―/まとめ
第三節 初出仕時の体験と雪の日の来訪者をめぐる会話
はじめに/一 定子と伊周の会話/二 雪の夜の来訪者と兼盛の歌の連想/三 雪の日の訪問と和歌/まとめ
第四節 〈海〉の写実的描写と幼少期の周防下り
はじめに/一 清原元輔の周防国赴任の考証/二 『枕草子』の記述からの考証/三 「舟に乗る」こと―「うちとくまじきもの」の構成―/四 他の作品に見る船旅の描写/まとめ
第五節 清少納言の見た『古今和歌六帖』は寛文九年版本の祖本か
はじめに/一 享受の認定基準と検討/二 『枕草子』の「楠の木」/三 『古今和歌六帖』諸本の和歌本文/四 清少納言の見た『古今和歌六帖』の本文/まとめ
【資料報告】
刈谷市中央図書館蔵村上文庫本『清少納言枕草子』について
はじめに/一 書誌/二 上冊について/三 下冊について/四 上冊墨付一丁から四丁にかけての朱筆校合/五 「幡」印について/まとめ
収録論文と既発表論文との関係一覧
あとがき
索引[人名・研究者名・書名・章段]
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