『源氏物語』「後朝の別れ」を読む 音と香りにみちびかれて
吉海 直人(著)
四六判 256頁 上製
定価 3,300円+税
ISBN 978-4-305-70827-4 C0095
在庫あり
奥付の初版発行年月 2016年12月 書店発売日 2016年12月22日 登録日 2016年11月28日
書評情報
2017-08-10 日本文学 平林優子
紹介
共寝した男女が翌日に別れることを意味する、「後朝の別れ」。それは闇の中で行われた。これまで、その時間帯が注目されることはなかったが、それではあまりにももったいないので、これまでの「常識」をあらためて検討し直す。
恋物語において〈別れの時刻〉として機能するその大事な時間帯は、聴覚や嗅覚の描写によって、男女の別れ際の心の機微が表出されている。ここから物語の読みを深めていく。
聴覚や嗅覚の重要性を、前著『「垣間見」る源氏物語』(笠間書院)で指摘したが、それは「後朝の別れ」でも応用可能である。本書では「暁」を告げる時計代わりの「鶏鳴」・「鐘の音」や、嗅覚に訴える「移り香」の重要性を丁寧に検証した。本書は『「垣間見」る源氏物語』の姉妹編ともいうべき書である。
【 「後朝の別れ」とは、共寝した男女が翌日に別れることを意味する。「きぬぎぬ」とは、その際に互いの下着を交換するという古代の習俗に基づく表現である。それに連動して、帰った男から送られる手紙のことを「後朝の文」という。
平安朝の恋物語において、そういった「後朝の別れ」は枚挙に暇のないほど描かれている。しかしながら、どうしても逢瀬の方ばかりが重視され、別れの場面─特にその時間帯が注
目次
序章 後朝の別れ─闇のなかで
Ⅰ 後朝の風景
第一章 後朝の時間帯「夜深し」
1 問題提起 小松論について
2 辞書的意味の検討
3 「夜深し」の広義と狭義
4 『源氏物語』の「夜深し」
5 「夜深く出」でる光源氏
6 「鶏鳴」と「夜深し」
7 「暁の鐘」と「夜深し」
結 「夜深し」は暁の始め頃
第二章 女性たちへの別れの挨拶─須磨下向へのカウントダウン
1 問題提起
2 『源氏物語』の手法としての時間の枠組み
3 出発までに何日かかったか
4 出発前の分析(その1)
5 出発前の分析(その2)
結 午前三時前の出発
Ⅱ 音がみちびく別れ─聴覚表現
第三章 人妻と過ごす時─空蝉物語の「暁」
1 発端
2 後朝以前
3 暁の迎え
4 曙の源氏
5 三度の紀伊守邸来訪
結 暁の重要性
第四章 庶民生活の騒音─夕顔巻の「暁」
1 問題提起
2 聴覚情報
3 暁の時間帯
4 暁の逃避行
結 暁の聴覚情報
第五章 大君と中の君を垣間見る薫─橋姫巻の「暁」
1 「垣間見」再考
2 暁の宇治行
3 月と霧の「垣間見」
4 薫の芳香
5 宿直人は薫の分身
結 暁の垣間見
第六章 契りなき別れの演出─総角巻の薫と大君
1 薫と大君の疑似後朝
2 暁の時間帯
3 椎本巻の解釈
4 月の記憶
5 従者達の苦労
結 擬似後朝
第七章 牛車のなかですれ違う心─東屋巻の薫と浮舟
1 「おほどき過ぎ」た浮舟
2 浮舟を抱く薫
3 牛車の活用
4 宇治への道行き
結 すれ違う心
Ⅲ 香りの物語─嗅覚表現
第八章 「なつかし」と結びつく香り
1 はじめに
2 「なつかし」き空蝉の〈人香〉
3 和歌における「なつかし」
4 「なつかし」と「移り香」・「かうばし」の結合
5 橘と「なつかし」
6 橘以外の「なつかし」
結 嗅覚の「なつかし」
第九章 男性から女性への「移り香」
1 問題提起 「移り香」の初出
2 黒須論の再検討
3 方法としての嗅覚
4 「移り香」の用例
5 『源氏物語』の特徴
結 私案提起
第十章 漂う香り「追風」─源氏物語の特殊表現
1 問題提起
2 「追風」の本義
3 「追風」の用例(順風の継承)
4 和歌への転移
5 若紫巻の「追風」
6 源氏物語の特殊な「追風」
7 源氏物語以後の「追風」
結 嗅覚の「追風」
第十一章 感染する薫の香り
1 はじめに
2 誕生時の薫
3 「かうばし」
4 芳香は薫の分身
5 「移り香」
6 匂宮の「匂い」
結 薫の芳香
第十二章 すりかえの技法─擬装の恋物語
1 〈すりかえ〉の論理
2 〈すりかえ〉によるあやにくな恋物語展開
3 源氏物語の〈すりかえ〉
4 夕顔巻の〈すりかえ〉
5 浮舟物語と〈すりかえ〉
結 擬装の宇治十帖
注
初出一覧
あとがき
著者プロフィール
吉海 直人(ヨシカイ ナオト)
昭和28年7月、長崎県長崎市生まれ。國學院大學文学部、同大学院博士課程後期修了。博士(文学)。国文学研究資料館文献資料部助手を経て、現在、同志社女子大学表象文化学部日本語日本文学科教授。主な著書に『源氏物語の新考察』(おうふう)平15、『源氏物語の乳母学』(世界思想社)平20、『「垣間見」る源氏物語』(笠間書院)平20、『源氏物語〈桐壺巻〉を読む』(翰林書房)平21、などがある。 上記内容は本書刊行時のものです。
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